猫の飼い主さんに知っておいてほしい猫の病気5選

2018年7月30日

 日本ペットフード協会が、2017年12月に発表した全国犬猫飼育実態調査によりますと、現在日本では犬が約892万頭、猫が約953万頭飼育されていると推計されています。
 1994年の調査開始以来、猫の飼育頭数が犬の飼育頭数をはじめて上回る結果になったそうです。

 今回は、猫ブームと言われる昨今のペット事情に合わせて、猫を飼っている人はもちろん、これから猫を飼おうと思っている人にもぜひ知っておいて欲しい、猫の代表的な病気を獣医目線でランキング形式により5つピックアップし、各々の特徴を簡単に解説します。
 詳細な情報についてはかかりつけの獣医師にご相談下さい。

 

1.猫下部尿路疾患

  猫下部尿路疾患とは、特定の病名ではなく、尿路感染症、尿石症、特発性膀胱炎などに
  よる膀胱や尿道の病気全般をさします。猫ではもっともよく知られた病気のひとつで、
  はっきりした原因はわかっていません。

  ◇主な症状
   血尿、頻尿(少しずつ頻繁に排尿)、失禁、決まった場所以外で排尿など。
   オスの場合は尿道に結石などが詰まりやすく、尿が出にくくなると重症化することが
   よくあります。

  ◇治  療
   軽症の場合は注射や内服薬で治療しますが、オスで尿道が詰まった場合(尿道閉塞)
   は、カテーテルという管を使って詰まった尿道を開通させます。
   それでも治らない場合は陰茎を切除する手術が行われることもあります。

  ◇ひとことアドバイス
   オスの尿道閉塞は治療が遅れると尿毒症に進行して死に至ることもあるので
   注意が必要です。異常に気づいたら一刻も早く獣医師の診察を受けて下さい。
   また良くなっても再発することが多いので、食事療法や尿検査などの継続的な
   管理が必要になります。

 

2.感染症

  ウイルス、細菌などによる猫の感染症(伝染病)にはいくつかの種類がありますが、
  ここでは比較的よく見られる代表的な病気について説明します。

  ①猫上部気道感染症

   ウイルス、細菌、クラミジアなどによって起こる呼吸器疾患で、「猫カゼ」として
   よく知られています。保護された子猫などによく見られ、アレルギー性鼻炎と
   間違われることもあります。

   ◇主な症状
    結膜炎による涙目、目ヤニ、まぶたの腫れ、鼻炎による鼻みず、くしゃみ、
    鼻づまりなど。

   ◇治  療
    主に抗生剤、抗ウイルス薬、インターフェロンなどによる内科療法が行われます。

   ◇ひとことアドバイス
    いったん症状が治まってもウイルスキャリアとして潜伏感染することが多く、
    のちに再発したり他の猫への感染源になることがあります。
    ワクチン接種である程度発症を予防することができます。

  ②猫白血病ウイルス(FeLV)感染症

   1〜6歳の屋外飼育の猫に多く、猫同士のケンカ、毛づくろい、食器の共有
   などによって、感染猫の唾液や鼻汁などを介してうつります。
   感染した猫の多くは免疫不全、リンパ腫、白血病など様々な病気を発症し、
   概ね4年以内に死亡します。

   ◇主な症状
    発熱、免疫不全に関連した歯肉口内炎、貧血、リンパ腫、白血病など。

   ◇治  療
    抗ウイルス薬、インターフェロンなどが試されていますが、十分な効果は
    期待できません。

   ◇ひとことアドバイス
    一般に、新生児の時点で感染した猫の80〜100%が持続感染しますが、
    1歳以降で感染した場合はほとんど持続感染しないことがわかっています。
    血液検査で感染の有無がわかりますが、1回の検査では持続感染かどうかが
    わからないので、感染が疑われる猫は再検査が必要になります。
    ワクチンも利用できますが完全に防ぐことはできませんので、予防には、
    室内飼育と感染猫との隔離がもっとも重要と言えます。

  ③猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症

   猫エイズとも呼ばれ、主に猫同士のケンカの際に、感染猫の唾液を介してうつります。
   日本では、屋外に出る猫の15〜30%が感染していると推察されており、
   その感染率は、屋内飼育の猫に比べて20倍高く、オスはメスに比べて
   2倍以上高いことがわかっています。

   ◇主な症状
    急性期:発熱、リンパ節腫大、下痢など
    無症候キャリア期:無症状
    持続性リンパ節腫大期:全身のリンパ節腫大
    エイズ関連症候群期:体重減少、歯肉口内炎、上部気道炎など
    後天性免疫不全症候群期:体重減少、日和見感染、腫瘍、貧血など

   ◇治  療
    抗ウイルス薬、インターフェロンなどが試されていますが、
    十分な効果は期待できません。

   ◇ひとことアドバイス
    血液検査で血中の抗体を調べることで感染がわかります。検査結果が陽性の猫でも
    無症候キャリア期が数年以上続く場合もたくさんありますので、室内飼育を徹底して
    ストレスのない管理につとめてください。また、FIVウイルスの伝播力はさほど
    強くないため、猫同士がケンカをしなけば感染のリスクはそれほど高くありません。
    ワクチンもありますが、完全には予防できませんので室内飼育がもっとも有効な
    予防法と言えます。

  ④猫パルボウイルス感染症

   猫伝染性腸炎、猫汎白血球減少症とも呼ばれる猫の代表的な感染症のひとつで、
   感染すると致死的な急性腸炎が起こります。

   ◇主な症状
    下痢、嘔吐、食欲不振、発熱など。
    重症例は発症してから1週間程度で死に至ります。

   ◇治  療
    抗生剤、インターフェロン、点滴などの内科療法が行われます。

   ◇ひとことアドバイス
    以前は致死率の高い病気として広く知られていましたが、ワクチンの開発や
    飼育形態の改善に伴って最近ではほとんど見られなくなりました。
    子猫のうちから適切な時期にワクチン接種を受けることをお勧めします。

 

  ⑤猫伝染性腹膜炎(FIP)

   FIPウイルスによって引き起こされる感染症で、すべての年齢の猫で起こりますが、
   とりわけ1歳未満の猫に多く見られ、発症するとほとんどの猫が数日から数ヶ月で
   死に至ります。

   ◇主な症状
    元気、食欲の低下や持続性の発熱、黄疸などが見られますが、腹水や胸水が貯まる
   「ウエットタイプ」とそれらがない「ドライタイプ」のふたつの型があります。

   ◇治  療
    ステロイド剤、利尿剤、点滴などによる内科療法が行われますが、
    有効な治療法はありません。

   ◇ひとことアドバイス
    FIPウイルスは、もともと国内の猫に広く蔓延している病原性の弱いコロナウイルスが
    猫の体内で突然変異することで、強い病原性を持つFIPウイルスに変化するものと
    推測されています。発症のメカニズムがわかっていないので有効な予防法は
    知られていませんが、できるだけ他の猫と接触しないよう、室内飼育を徹底する
    ことが最善の予防法と言えます。
    FIPを発症した猫から他の猫へ感染する可能性は低いと言われています。

   *感染症のなかには、病気の猫の唾液、鼻汁、糞尿などから人を介してうつる場合も
    ありますので、猫を飼っている方は、日頃から見知らぬ猫に触れないよう、
    心がけて下さい。

 

3.慢性腎臓病

  慢性腎臓病は高齢猫のもっとも代表的な病気のひとつで、
  7歳以上から徐々に発病率が増加し、
  15歳以上の猫の30%以上が罹ると言われています。

  ◇主な症状
   体重減少、多飲多尿、嘔吐、元気食欲の低下など。

  ◇治  療
   食事療法、降圧剤、吸着剤などの内服、輸液などの内科療法が行われます。

  ◇ひとことアドバイス
   気がつかないうちに少しずつ症状が進行するので、日頃から小さな変化を
   見落とさないように注意して下さい。7〜8歳を過ぎたら血液検査や尿検査を含む
   定期検診を受けることをお勧めします。
   (2018年1月の「猫の慢性腎臓病アップデート」も合わせてご参照下さい)

 

4.甲状腺機能亢進症

  甲状腺ホルモンが過剰に分泌されて起こる病気で、8歳以上の猫の3〜5%が罹っていると
  言われています。主に甲状腺の良性腫瘍が原因で起こります。

  ◇主な症状
   体重減少、元気食欲の低下または増加、多飲多尿、
   嘔吐、下痢、活発な行動、興奮など。

  ◇治  療
   食事療法、抗甲状腺薬などの内服、甲状腺の外科切除が行われます。

  ◇ひとことアドバイス
   甲状腺ホルモンは新陳代謝を上昇させるはたらきがあるので、高齢で痩せているにも
   関わらず食欲が増えたり行動が活発になったときは、甲状腺機能亢進症の疑いが
   もたれます。
   血液検査でわかることが多いので、7〜8歳を過ぎたら慢性腎臓病と合わせて
   定期検診を受けて下さい。

 

5.歯肉口内炎

  猫には特有の口内炎がよく見られ、発病率はおよそ6〜7%とされています。
  口腔の奥の粘膜に潰瘍や増殖を伴う炎症病変が形成されます。
  原因として口腔内細菌やウイルスの感染、免疫反応の異常などが推察されていますが、
  明確にはわかっていません。

  ◇主な症状
   口を気にしてしきりに動かす、前肢で口を引っ掻く、よだれをたらす、
   餌を食べるときやあくびをした時に痛がる、毛並みが悪くなる、
   食欲が低下する、痩せてくるなど。

  ◇治  療
   抗生剤、ステロイド剤、免疫抑制剤、インターフェロンなどによる内科療法と
   抜歯による外科療法があります。

  ◇ひとことアドバイス
   内科療法で一時的な改善が得られても、しばらくするとほとんどのケースが
   再発します。
   抜歯療法は内科療法に比べてより高い効果が期待できますが、一度に臼歯を中心に
   複数の歯を抜く必要があるため、麻酔を必要とし、手術に時間がかかるので
   衰弱している猫にはある程度のリスクが伴います。

 

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