猫のトキソプラズマ症

2009年10月23日

 

猫に寄生する寄生虫の中に、単細胞生物の原虫といわれるグループがあります。この原虫のグループにトキソプラズマという寄生虫がいます。人を含めた全ての温血動物が中間宿主(補足説明1)としてトキソプラズマに感染しますが、人への感染が可能なオーシスト(補足説明3)を体外に排泄できる動物は猫だけです。また、妊婦さんが感染した場合は胎児への悪影響がおこる事があります。動物病院で妊娠した方が猫についての不安を相談されるケースがあるのはこのためです。

 

○猫での感染について

トキソプラズマ原虫は猫科動物の腸管粘膜や腸管外組織に侵入して増殖します。感染はシスト(補足説明2)を持った中間宿主(補足説明1)の捕食(ネズミなどを食べる行動)や、すでに感染している猫の糞便の中に排泄されたオーシスト(補足説明3)を摂取する事により成立します。
健康な成猫では感染しても発病しないか、一時的な軽い症状のみ示すだけで慢性感染へと移行するものがほとんどで、症状を示す多くは子猫です。
感染後3~5日目以降にオーシスト(補足説明3)を糞便中に排出し、それが1週間程度続き、排泄されたオーシストは1日から2日で感染力を持つようになります。

猫での急性トキソプラズマ症は、感染初期に全身臓器で増殖することにより症状は多岐にわたり、食欲不振、発熱が一般的にみられ、肺炎、嘔吐、下痢、腹水、黄疸や肝障害などの症状を示します。
慢性トキソプラズマ症は、組織に形成されたシスト(補足説明2)に由来し、比較的病巣が限局され症状は持続的または再発を繰り返す場合が多く、食欲不振、発熱、貧血、心筋障害、中枢神経障害、眼病変をもたらします。

猫での臨床症状のみからはトキソプラズマ症の診断は困難ですが、子猫の下痢、神経症状、肺炎などが見られた場合は注意が必要です。一般には血清抗体価の測定により感染を知ることができますが、抗体価の上昇には1〜2週間かかるため、感染初期には抗体価が陰性というケースがあります。そのため、1週間以上の間隔を置いた2回の抗体測定を行い判定することが望ましいです。

猫への感染予防の方法は、生肉を与えないことや屋外での小動物を捕食させないということです。また、集団飼育下では感染猫が他の猫の感染源となるので、出産や新しい猫の導入に伴って予防的検査をすることが望ましいです。
また、感染後排泄される糞便はすぐにかたづける、または焼却処分しましょう。(排泄されたオーシストは熱に弱く、70℃2分または90℃30秒の加熱で死滅します。)

免疫機能が低下している猫や免疫不全を伴う伝染性腹膜炎、猫汎白血球減少症、猫免疫不全症候群などの疾患を持つ猫では、感染による症状の悪化や慢性感染の再活性化による発病が見られることもあるので、注意が必要です。

 

○人への感染について

人間への感染経路としては、シストを含んだ食肉やオーシストを含むネコの糞便に由来する経口感染が主です。免疫に異常がなければ、トキソプラズマに感染しても一般に何の症状もありませんが、10-20%の人で、リンパ節が腫れたりインフルエンザのような症状が出たりします。何らかの免疫不全を持つ方の場合、感染により問題を生じたり、潜伏しているトキソプラズマが再活性化されるために問題となる場合があります。

妊娠とトキソプラズマの関係ですが、ほとんどの場合、感染しても母体は正常で無症状ですが、妊娠中にトキソプラズマの初感染を受けた場合、約30%が経胎盤感染し、数%から20%に典型的な先天性トキソプラズマ症状(顕性感染:胎内死亡、流産、網脈絡膜炎、小眼球症、水頭症、小頭症、脳内石灰化像、肝脾腫など)を発症します。出生時無症状であっても、成人になるまでに網脈絡膜炎や神経症状(てんかん様発作、痙攣など)等を呈することもあり、トキソプラズマ胎内感染の実態は不明であるのが実状です。

母親がトキソプラズマに感染した時期によって先天性トキソプラズマ症の発生率と重症度は違います。妊娠初期の場合、胎児への感染は少ないのですが、母体への影響が大きく流産となる場合があります。妊娠後期の場合、胎児への感染は大きいのですが、母体は軽症の場合が多いです。

トキソプラズマの母体への感染が考えられるような場合は、早期に母親を治療することによって先天性のトキソプラズマ症の発生を減らせるので、正確で敏速な診断が必要となります。産婦人科の先生にご相談ください。

 

○人間のトキソプラズマ予防

・庭いじりや土・砂に触れるようなときには、手袋を着けましょう。土・砂に触れた後は、水
 とセッケンでよく手を洗い流しましょう。食事や料理の前には特に注意する必要がありま
 す。

・妊娠中の方が生肉を扱うのはやめましょう。それができないときには、生肉を扱うときに
 は、ゴム製の清潔な手袋をするようにしましょう。

・生肉が接触したまな板、洗い場、包丁等は、よく洗い流しましょう。その後で、水とセッケ
 ンでよく手を洗い流しましょう。

・すべての肉をよく加熱しましょう。
・自分のネコがトキソプラズマに感染するのを防ぎましょう。(室内飼い、生肉を与えない、
 ネズミなどを食べさせないなど)

・ネコのトイレの掃除は、妊娠中でなく健康な人にしてもらいましょう。ネコの糞の中のトキ
 ソプラズマのオーシストは、すぐには、感染する力をもっていませんが、1-5日で成熟して感
 染する力を持つようになるので、毎日掃除して早めにネコの糞を除去したほうが安心です。
 ネコのトイレの掃除後は、水とセッケンで手をよく洗い流しましょう。



※補足説明1・・・中間宿主
寄生虫が、終宿主(補足説明4)に至るまでに段階的に寄生する動物のこと。トキソプラズマにとっては、猫以外の哺乳動物や鳥など多くの動物が中間宿主にあたる。猫も終宿主とともに中間宿主としても働く。寄生虫は中間宿主に感染すると、中間宿主から終宿主へ移りやすく(中間宿主が捕まえられやすいため)、また、中間宿主から中間宿主への感染もある。

※補足説明2・・・シスト

脳や筋肉の組織中に厚く丈夫な壁に包まれた球形のシストを作る。シストには数千におよぶ緩増虫体が含まれており、無性生殖によりゆっくりと増殖している。シストは室温でも数日、4℃なら数ヶ月生存しており、-12℃までの低温にも耐えるが、熱処理(56℃15分)や冷凍処理(-20℃24時間)で不活化できる。

※補足説明3・・・オーシスト
終宿主であるネコ科の動物に感染すると、有性生殖を行ってオーシストが形成される。オーシストは糞便中に排出され、環境中で数日間かけて成熟し、数ヶ月以上生存している。消毒液に対する抵抗性が高いが、シスト同様の処理で不活化できる。

※補足説明4・・・終宿主
寄生虫が、最終的に寄生して有性生殖し子孫を増やすことのできる動物のこと。トキソプラズマにとって、感染可能なオーシストを体外に排泄できる終宿主動物は猫だけである。

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